広島県三次市南部で始まった地域のお出かけ支援サービス

広島県三次(みよし)市の南部に位置する川西地区は、2018年12月14日よりマツダと協力した移動サービスの実証実験を本格的に開始した。電話かスマートフォンのアプリから利用登録をすることで、自宅まで迎えに来てもらい、川西地区の主要な施設へと相乗りできるというサービスだ。公共交通機関が充実していない中山間地域で、自由な移動手段を提供するのがひとつの大きな目的だが、実際に取材をしてみると、地域の人たちをつなぐシステムとしても大切な役割を果たすことが分かった。

広島空港からクルマで45分ほど走ると、山々や田んぼの広がるのどかな風景の中に、ぽつりぽつりとオレンジ色の屋根をもつ昔ながらの日本家屋が現れてくる。この屋根には「石州瓦」 (赤瓦)と呼ばれる瓦が使われており、普通の瓦よりも焼成温度が高いため、積雪や水による割れに強く、中国地方の山間部や山陰の豪雪地帯では愛用されているそうだ。この広島県三次市の川西地区でも石州瓦を使っている家が多く、この風景もこの地域の特徴のひとつとなっている。

オレンジ色が特徴の石州瓦

三次市川西地区は、海渡町、石原町、上田町、三若町、有原町の5つの町からなっており、この地域で、地元の方々と広島県、そしてマツダの協力による移動サービス実証実験が始まった。本格的にスタートしたのは昨年の12月14日からで、利用登録をした川西地区の住民が電話かスマートフォンのアプリから予約をすると、所定の時間に自宅へ迎えが来て、川西地区の主要な施設へと運んでもらえるというサービスだ。

5つの町の輪、和という意味で「いつわの里」と呼ばれている

川西には商店や病院などの施設がなく(診療所のみ)、電車やタクシーなど交通機関もない。買い物や病院に通院するためには三次市街まで行かなければいけないのだが、交通手段がクルマか1日数本のバスに限られてしまう。クルマを自由に運転できればいいのだが、高齢者の方は運転が難しい人もいるだろうし、三次市街まで出る路線バスの停留所まで遠くて歩けないという人も多い。そこで今回の移動サービスを有効に活用してもらおうという考えだ。

三次駅へ向かう路線バス

車両はマツダが「CX-5」を用意し、運行体系は地域の方々が主体となって決定したd。マツダは「自由に移動し、人とひとがつながる心豊かな社会づくり」を目指しており、川西地区の課題は将来はグローバルの課題になるとみている。将来に備えて、チーム広島で課題に取り組み、小さく生んで大きく育てることを目指している。

基本的には、月、水、金に「自宅」-「郷の駅(コンビニに食堂などを併設した地域生活拠点)」-「郵便局」-「自治会館」-「診療所」というルートの定期便が運行しており(午前と午後の2回)、道の駅から出発している三次市街行きの路線バスに乗ることができる時間に到着するようになっている。ただし、5つの町を3つの地域に分けており、3日間で各地域を1日ずつ回るという設定となっている。現時点ではこのように決められたルートを通ることになっているが、いずれは住民の方々が希望のルートを設定して、それに合わせて他の人たちも乗り合いするという想定もしているそうだ。

「いつわ号」と名付けられた川西地域内交通用のマツダ「CX-5」

この移動サービスはいまのところ無料で利用することができるものの、運行範囲は川西地区に限られている。「三次市街まで乗せてもらいたい」という要望もあるそうだが、川西地区から出てしまうと交通事業者との協議が必要なため、まずは地域内移動に限定しているという。

本格的な運用から約1カ月経ち、利用者の声も少しずつ集まってきている。年配の方はたくさん買い物をしたときなど、自宅まで荷物を運んでもらえるのがとても有り難いそうだ。いま川西地区ではタクシー会社もないので、もし利用する際にはわざわざ三次市街地から呼ばなければならず、それだけで3000~4000円かかってしまい、さらにプラスして利用区間分の料金を支払わなければならない。

出費がかさむこともさることながら、川西区域はきつい坂道や入り組んでいる場所があるので、雪が降ったりするとタクシーが入っていけず、急な坂道の下に置いていかれてしまうこともあるという。そうなると、せっかくタクシーを呼んだにも関わらず、重い荷物を持って坂道を自力で登っていかなければならないという経験をした人もいたそうだ。

マツダによると、川西地区の住民の方々が豊かな暮らしを送るために、移動そのものがどうあるべきかを地域主体のワークショップで議論を重ねたという。単なる移動をサポートするだけではなく、地域住民が助け合って生きていくためにも日頃のつながりが重要だと考え、アプリ機能に地域イベント告知と移動サービスを連携させる機能を盛り込んだ。

NPO法人ほしはら山の学校の運営に携わり、
地域活性化に積極的に参加している桧谷さん

取材を終えると移動サービスのドライバーとして登録をしているという桧谷さんが「イノシシが獲れたから」とご自宅まで招いてくれた。桧谷さんは、廃校となった木造校舎三次市立上田小学校を一部改装した交流宿泊施設「ほしはら山のがっこう」の運営にも携わっている。

ここでは、宿泊体験や日帰り利用もでき、イベントなどにも使うことができるという。また、年間を通して「ふるさと自然体験塾」を行い、田植えや稲刈りをしたり、自然の中を探検するようなイベントも開催しているという。こういった川西地区の魅力を継承していくためにも、この運行システムがこれから大きく成長を遂げてほしいと感じた。

ほしはら山のがっこう
家族や友達などグループでも宿泊できる