燕三条の「工場(こうば)の祭典」を見学:前編

2018年10月4~7日に新潟県燕市と三条市で行われたオープンファクトリーのイベント「燕三条 工場(こうば)の祭典」をレポート。金属加工で有名な同地域では、包丁や工芸品の生産が盛ん。そうした製品をどのようにして造るのか、普段見ることのできない工場の内部をじっくりと見ることができた。

少し冷たい風が吹き始める頃の10月4日。

上野駅発の上越新幹線「MAXとき」に乗って私は燕三条へと向かった。時間ごとに変わる景色を眺めながら1時間半、燕三条駅に降り立つとホームから山の景色が見える。改札を通り抜けると、目の前に鮮やかなピンク色のブースが目に飛び込んできた。

このブースこそ、今回の旅の目的である、第6回「燕三条 工場の祭典」の案内ブースだ。

ピンクのストライプが特徴の案内ブース

「燕三条 工場の祭典」とは、2012年から年に一度、新潟県燕市および三条市とその周辺地域で行われてるイベントで、普段は一般公開されていないKOUBA(工場・耕場・購場)の中を、見学ができたり、ものづくり体験ができる。

このイベントに参加するKOUBAは2018年は109拠点にものぼり、主に燕三条で盛んな産業である包丁やスプーンなどの金属加工や、鍛冶、木工、印刷業など、様々なKOUBAへの扉が開かれている。

改札前のブースでパンフレットをもらい、今日1日レンタカーで街に点在するKOUBAを巡っていくことにしよう。

オリジナル自転車工具も鍛造で

車を15分ほど走らせて、最初に目指したのは、建築金物、建機、農機、刃物から航空機など幅広い業種に向けて、鉄の鍛造から加工までを行う三条市の相場産業。

今回工場を案内してくれるのは、なんと相場産業の社長である相場健一郎さん。社長直々に工場をご案内とは、なんて豪華な見学ツアーなのだろうか。

鍛造からオリジナルの自転車工具も手掛ける相場産業社長の相場健一郎さん

相葉社長のあとに続き、工場に向かう。するとその途中で「カーーーーン!カーーーーン!」とものすごい音とともに地面が揺れ始めた。なんだこれ!?と思いながら音の先に目をやると、高さ5メートルほどの大きな機械が真っ赤になった金属を打ちつけている。

左が鍛造マシン

機械の前では、真っ赤に焼けた金属が打ち付けられる度に散らす火花を浴びながら作業をする職人さん。打ち付けられる金属を工具を使い、手で支え金属を成形している。その真剣な眼差しと、命がけの作業をする背中は、ただただカッコいい。

この「工場の祭典」の一番の見どころは、日本の誇るべき技術を間近で見られることと、さらにそれを作り出す人、そして職人さんたちの姿なのだ。

こちらの相葉産業では、「RUNWELL」という理想的な質感を追い求めた自転車工具のブランドも展開し、自転車を愛する者たちに支持されている。自転車愛用者にはぜひ一度手にとって、仕上げの美しさと使い心地の良さを感じて欲しい。

どんなに優れた製品も、最終的には微細な違いを感じ取れる職人さんの手に委ねられる。この最後の微調整は人の手でしか調整できないそう。こうして作られた金属部品は私たちの生活を影で支えてくれているのである。

RUNWELLブランドの六角レンチ

手仕事にこだわる包丁ショップ

相場産業を後にし、2件目に向かったのは同じく三条市のタダフサが運営する「包丁工房タダフサファクトリーショップ」。職人の手仕事にこだわる庖丁工房だ。

こちらの工場を案内してくれたのは番頭の大澤真輝さん。早速、普段は足を踏み入れることのできない工場の中へと案内していただく。

タダフサ番頭の大澤真輝さん(左)と一緒に

包丁の工法には、鋼と軟鉄を手作りで鍛接して接合するものを頂点として、あらかじめそれらが材料メーカーにより接合されて提供される利器材を使う方法、平板をプレスで打ち抜いて作る方法などがある。

タダフサは、職人の手で鍛造しながら形を整えていく利器材を利用した包丁やプレス品の包丁を手掛けている。これらの製品は家庭用からプロ用まで幅広いラインアップが容易されており、1万円前後の価格が多い。

最初に見せてもらったのは、鋼とステンレスをサンドイッチして作られた利器材やそれを鍛造した素材が並んだ展示。手に取ってみると光具合も鋭さも、厚さも重さもまだまだ包丁とは程遠い。ここからいくつもの工程を得て、切れ味の鋭い包丁になっていく。

左手前の利器材を加工して、徐々に包丁の形にする

包丁を作る工程は、大きく分けると、素材を高温に熱した後に急冷させて固くする「焼き入れ」と呼ばれる工程の前後で作業が変わってくる。焼き入れ前は加熱した鋼を叩いて成形する、鍛造がメインになる。一方、焼き入れ後は、形を整えたり、砥石で切れ味を良くするといった仕上げの作業となる。

実際にはもっと細かな作業に分類されていてその段階ごとに職人さんは持ち場をもって作業をされているとのこと。

ナイフの曲がりを修正する工程

この日は職人さんが「燕三条 工場の祭典」に参加する他の工場を見学しに行っていたこともあり、工場内は静けさを帯びていた。しかし、工場の中に確かにある人の気配から普段の工場ではどんな音が鳴り響いて、どんな光景が広がっているんだろうと想像が膨んでいく。

いつも何気なく使っている包丁が、こんなにたくさんの工程と、人の手を経て私たちのもとにやってきている…。普段なかなか想像しない物にある背景に触れて、暮らしが多くの方に支えられているということに気付かされた。

しばらくは、物の裏にあるストーリーに想いを馳せる日々になりそうだ。