燕三条「工場(こうば)の祭典」を見学:後編

2018年10月4~7日に新潟県燕市と三条市で行われたオープンファクトリーのイベント「燕三条 工場(こうば)の祭典」をレポート。初回のレポートでは、鍛造工具や包丁の工場を紹介したが、今回は三条の交流施設にもなっている三条スパイス研究所や、その後訪れた200年の歴史を持つ銅製伝統工芸品の工場を見てみる。

時刻はお昼を回り、お腹も空いたので腹ごしらえ。

「燕三条 工場の祭典」に出展している、北三条駅前の「ステージえんがわ」内にある三条スパイス研究所でランチ。ここは、「スパイス=異なるものをミックスして新たなものを生み出す」、という理念で作られた食堂で、様々な人々の交流の場所ともなっている。

店内には色とりどりのスパイスが並んでいる
スパイスと肉の炊き込みご飯「ビリヤニ」をチョイス

普段なかなか食べることのないスパイス料理。想像していたクセの強いスパイスの味とは裏腹に優しい味。これで午後も元気にKOUBA巡りができそう!

200年の歴史を持つ銅器工房

続いて訪れたのは、無形文化財である鎚起(ついき)銅器を作る200年の歴史を持つ玉川堂(ぎょくせんどう)。燕市にある玉川堂本店の建物は、2008年に国の登録有形文化財に指定された情緒溢れる場所。

凛とした構えの入り口を通り抜けると、中には工場見学に来た人たちが列をなしていた。例年待ちが出るという玉川堂の工場見学。「燕三条 工場の祭典」の中でも人気の高いスポットだ。混雑していたこともあり、次の見学時間になるまで、店舗となる和室に上がって待たせていただくことになった。

そもそも鎚起銅器とは何か。それは、銅板を金「鎚」で、打ち「起」こしながら作り上げられた器。一つひとつ手作業で槌で打ちながらカタチを作っていく。

和室には、玉川堂の商品が上品にディスプレイされている。素人目にも輝き、ずっしりとした重厚感、手間のかかり具合から「いいもの!」とわかる。

注ぎ口まで含み、1枚の銅板から胴部を作ったかぼちゃの急須
人間国宝の玉川宣夫さんが作った花瓶

一番驚いたのは、何気なく置いてあるこちらの花瓶。よく見ると木目のような柄が施されているのだが、この木目は描いたものではなく、何層もの金属を融着し、彫りや削りなどを加えて木目模様に仕上げた木目金(もくめがね)と言われるもの。なんと、こちらの商品は人間国宝にもなっている玉川宣夫さんの作品。そんな貴重な作品も手に取れる距離で見られるのも魅力の一つだろう。作品に見とれている間にあっという間に、工場見学の時間となった。

孫の代まで使える

畳の敷かれた工場に通されると、けやきの雌株から作られた硬さのある「上がり盤」と呼ばれる作業台がずらっと並んでいた。そして、壁一面には鎚起に必要な槌や、鳥口(とりぐち)と呼ばれる銅器を叩く際に当てがう道具がかけられている。

この日も何人かの職人さんが「カンカン、カンカン」という甲高い音を立てながら、黙々と銅を打っている。

工房で銅器の作り方を説明してくれる
1枚の銅板を叩いて急須の形にする

説明してくれたのは、1枚の銅板を叩いてつくる鍛金(たんきん)という技法で、本体と注ぎ口までつなぎ目がない銅器が作られる過程。

1枚の銅板を叩いていくと銅板は徐々に伸びていくのだが、急須の上部に向かっていくにつれて直径を小さくしていく必要があり、単純に伸ばすだけではすぼまった形状は作れない。そのため、伸ばすと同時にある部分を縮めていく作業が必要になる。この作業を「打ち縮める」や「絞る」と呼んでいるのだが、当然余った肉が発生するため、銅板にシワが寄ってくる。

上部のシワをいかになくしていくかがポイントだ

しかし、このシワ。無理に重ねたりすると、端部が切れてしまい商品にならなくなってしまうため、均等にシワを寄せていき、最終的にシワをなくしていくという高度な職人技が求められる。

また縮んで密度の高くなった銅は硬くなる。そのため、その度に一度火に入れて銅を柔らかくする「焼き鈍し(やきなまし)」という作業を行う。叩く度に硬くなるので、それを焼き鈍して柔らかくする。この作業を何十回も繰り返してやっとできあがるのが同社の商品というわけだ。

1品1品を手作業により制作する

もちろん手が込んでいる分だけ丈夫で、壊れにくい。一度買えば、子供、孫の世代までも使えるというから驚きだ。 “いい物を長く使う”。安いものを使い捨てる現代だからこそ、良い物を長く大切に使って行く精神を大切にしていきたい。

今回「燕三条 工場の祭典」で工場を巡り感じたこと。それは、よく言葉として聞いていた「世界に誇る日本の技術」に実際に触れることで、日本に生まれたこと、日本人であることを改めて誇りに感じたことだった。

なかなか表舞台には出てこない、だけれども本質的で想いのあるモノづくりの現場。工場の祭典は、1年に1度のチャンスのオープンファクトリーですべての工場を見られるのはこの時しかない。ただし、玉川堂のように、いつでも工場見学の門戸を広げている場所もある。普段は入れない工場に入るもよし、また観光のついでに寄るもよし。人と話し、温度を感じ、音を聞き、五感で現場を感じとる。この貴重な体験を一人でも多くの人に味わってほしいと思った。